愛の小さな歴史

もし彼女がそのような撮影を行ったのが人生でただいちどだけ、広島の地においてだけだったとしても、彼女は写真に必要なことを自分のものとし、そのまなざしを広島の人々へ贈っていた。女優である彼女は、見るということが、まなざしを贈るということでもあると、よく知っていたのである。映画よりも先に、映画の撮影が始まるよりも前に、エマリュエル•リヴァはヒロシマに、ある大切なものを贈っていたのだった。
『愛の小さな歴史』港千尋 (インスクリプト



アラン•レネ、マルグリット•デュラスが残した傑作『ヒロシマ•モナムール』。
わたしが、この映画に出会ったのは、ベルリンでした。観客は全て、ドイツ人。映画が終わった後に、自分が感じた場所との違和感のようなものを強烈に思い返しました。

主演女優エマリュエル•リヴァが撮影当時の広島を撮った写真を軸に導かれる、写真と夜と死を巡る考察。

リヴァから贈られたまなざし。
彼女が写真には映らないと語ったものについて、想いを巡らせることは、今わたしたちのすぐ近くで起きていることと重なっていきます。